「魂は」長田弘




悲しみは、言葉をうつくしくしない。
悲しいときは、黙って、悲しむ。


言葉にならないものが、いつも胸にある。
嘆きが言葉に意味をもたらすことはない。
純粋さは言葉を信じがたいものにする。
激情はけっして言葉を正しくしない。
恨みつらみは言葉をだめにしてしまう。


ひとが誤るのは、いつでも言葉を過信してだ。
きれいな言葉は嘘をつく。

この世を醜くするのは、不実な言葉だ。
誰でも、何でもいうことができる。
だから、何をいいうるか、ではない。
何をいいえないか、だ。



銘記する。
言葉はただそれだけだと思う。
言葉にできない感情は、じっと抱いてゆく、
魂を温めるように。
その姿勢のままに、言葉を保つ。
じぶんのうちに、じぶんの体温のように。



一人の魂はどんな言葉でつくられているのか?