やむにやまれぬ





















光の粉をまぶしたように
フランスの丘という丘が
淡いオレンジに輝いているのは
ポールセザンヌのせいである

破戒なのか革命なのか
関節のゴツゴツした音は
たまげた構図の中で休む
エゴンシーレは誰なのか

一人ぼっちは絵描きになる
一人ぼっちは絵描きになる

むろん正気などではありはせぬ
赤いガランス内なるデカダン
村山槐多 思いし夜は
何ためらうことなく殘酷になる

覚悟などとるに足らぬのだ
いつか君に励まされた
長谷川利行 さみしかないか
今日のメシはさみしかないか

一人ぼっちは絵描きになる
一人ぼっちは絵描きになる

確かなものなぞ何ひとつない
人とて詮ない肉片なり
フランシスベーコンはるかなりけり
いつかおぼろげなハグをした

軽きに空をちぎって見せる
パウルグレーの欲深き指は
甘美な鳥の爪跡か
名も無き民の暗号か

一人ぼっちは絵描きになる
一人ぼっちは絵描きになる

台風が好きだった
黄色いパレット カタカタ鳴らせば
越年の雪の小窓で揺れる
関根正二あなたでしたか





友川カズキ
「一人ぼっちは絵描きになる」