まあこのそらの雲の量と


























まあこのそらの雲の量と
きみのおもひとどっちが多い
その複雑なきみの表情を見ては
ふくろふでさえ遁げてしまふ
清貧と豪奢はいっしょに来ない

複雑な表情を雲のやうに湛へながら
かれたすゞめのかたびらをふんで、
さういふふうに行ったり来たりするのも
たしかに一度はいいことだな
どんより曇って
そして西から風がふいて
松の梢はざあざあ鳴り
鋸の歯もりんりん鳴る

きみ 鋸は楽器のうちにあったかな

清貧と豪奢とは両立せず
いい芸術と恋の勝利は一緒に来ない
労働運動の首領にもなりたし
あのお嬢さんとも
行末永く付き合ひたい
そいつはとてもできないぜ



宮沢賢治